初冬
「もう冬だねー」
かじかんで赤い手に息を吐きかける。マフラーは巻いているのに、手袋をしてこなかったのは失敗だった。
「来週は雪降るらしいよ」
親友はそう言いながら、携帯電話でメールを打っている。この寒さでは親指もロクに動かないだろうに、よくやるものだ。
「マジ?」
「こんな寒さならおかしくないでしょ」
校門から駅までの帰り道。右が私で、左が零。立ち位置も時間もいつもと同じだ。
「やだなー。模試のために雪の中出てくるとかダルい」
「それはみんな思ってるよ。でもさ、入試前の最後の模試なんだし、ちゃんと受けなきゃ」
「そりゃそうだけど……」
半分冗談な私の愚痴でも、この親友は真面目に返してくる。
「そういえば彩ちゃん、C組の渡瀬君に告られたんだって?」
唐突な話題に固まった。
「……どうしてあんたが知ってんのよ」
「みんな知ってるよー」
人の口に戸は立てられず。どこから漏れたか知らないけれど、この鈍い親友が知っているなら、学校中に広まっているのだろう。
「参ったな……」
「で、なんて返事したの?」
零が無邪気な笑顔でこちらの顔を覗き込んでくる。
「――」
「ん? 聞こえないよー」
「……断ったよ」
「えー、もったいないなー。渡瀬君ってかっこいいじゃない。狙ってる女子多いんだよ」
眉間に皺を寄せ、かなり本気で言ってくる。こんな話に本気になるのも珍しい。
「あんた結構ミーハーだったんだね」
「だってさ、高校生活もあと少しだよ? 彼氏つくって青春満喫するのもありじゃないかな」
雪が降って年が明ければ、入試は目の前だ。
「でも渡瀬君のことよく知らないし、それに彼氏なんてできたら――
「彩ちゃん大好き!」
「うわっ! いきなり抱きつかないでよ!」
春はまだ、少しだけ遠い。
ENo.650 式村 彩さんお借りしました。
ありがとうございました。