高校生コミュ夏合宿・2時限目裏
次々と松の古木が薙ぎ倒されていく。元より防風を目的として植えられた林だ。それほど数があるわけでもない。
「さぁて、これですっきりしたな」
最後の一本が地響きと共に倒れた。幹の内部を晒した株がエルフの少年と背の高い青年の二人を取り囲んでいる。丈の高いものは彼らの他にない。
「この俺から逃げられると思ったか?」
剛腕教師は不敵を通り越して不気味に笑う。邪悪に光る目に射抜かれ、二人は身を竦める。気分的には大魔王に立ち向かう村人Aのそれである。
「こうなったら……」
だがここまで窮地に陥れば逆に肝が座るもの。意を決し、エゼは愛弓を取り出した。彼の上背をゆうに超える大きな弓である。
「……そんなの持ってたっけ?」
小屋を出る時は手ぶらだったはず、と尋ねるフェンネルに、エゼは大真面目な顔付きで答えた。
「四次元ポケットから出しました」
「四次元ポケットってなんだよ!」
思わず復唱。思わずツッコミ。わめくフェンネルは無視してエゼは弓を構えた。
弓はあるけれど矢がない。どうするのかと見ていると、引いた弓と弦の間に光り輝く矢が現れた。
「それは……」
フェンネルが呆然と呟くように問う。エルフの少年はキリキリと弦を引き絞っていく。剥き出しの二の腕に筋肉が浮く。
「僕の煩悩力を以下略」
「以下略ってなんだー!」
わけもわからず叫びっぱなしのフェンネルとは対照に醍の顔から笑顔が消えた。
「その技、話には聞いたことある。まさか使い手が実在するとはな」
「醍さん知ってるぽいし!」
事情を知らないのは熱血とは無縁のコンビニ店長ただ一人。完全に置いていかれている一般人を無視し、醍とエゼは熱苦しいバトルオーラをほとばしらせる。
「俺のチョークとお前の矢、どっちが強いかな……!」
振り抜いた醍の腕が風を巻き起こす。白墨が弾丸のごとく一直線にエゼとフェンネルに向かってくる。
「わ、わわわ!」
その速度は先程の比ではない。遮蔽物であった木々がない今、白墨は最高速度をもって二人に迫る。
うろたえるフェンネルはその場に尻をついてしまった。このままではチョークが彼の頭を撃ち抜いてしまう。逃げなければ命がない。
エゼは弦を引き絞ったまま、静かに正面を見据えている。
そう、フェンネルには、エゼは立っているだけにしか見えなかった。
だが。
醍と二人を結ぶ線の中心で閃光が炸裂した。
「ほう。なかなかやるじゃねェか」
感心の声をあげた醍に、エゼは不敵な笑みを返す。
「このくらい序の口ですよ」
白墨の白い断面にエネルギー体の矢尻を当てて相殺した。単純な話であるが、やろうと思えば簡単なことではない。人並み外れた動態視力と、それに応じられるだけの俊敏性、そして一瞬で弦を引けるだけの筋力がなければできない芸当である。
「上等だ。そのくらい骨がないとな!」
実に嬉しそうに醍が吠えた。今飛ばしてきた一本は牽制だったのだろう。再び飛んできた白墨はその数を増やし、二人を掃射せんと降り注ぐ。
だが白墨の雨は二人にまで届かない。目に見えない速さで弓を引くエゼにより、次々と撃ち落とされていく。エネルギー体である矢は弦を引くだけで生成される。矢を番える動作が必要ない分、攻撃の速度を上げることができるのだ。
今や戦場のような轟音が開けた浜辺に満ちていた。
「――という夢を見たの」
「零……あんた、うちの兄貴をなんだと思ってんの……」
ENo.256 エゼ=クロフィールド
ENo.600 フェンネル・ロックハート
ENo.650 式村 彩
(ENo.順、敬称略)