False Island
コミュニティ「高校生」

高校生コミュ夏合宿・3時限目


 今宵は新月。闇夜の中に囁くような潮騒が聞こえる。昼間あれほど賑やかだった海はとても穏やかだ。寄せては返す波はおろか、一寸先すら見えないほどの闇なのに不思議と恐怖はない。
 全ての生物が生まれ、全ての生物が帰す母なる海。
 ユキは岩礁に座り、そんな海をぼんやりと眺めていた。山育ちの彼にとっては、潮の香りも漣の音も珍しくて仕方ない。だからといって昼間のキンジのようにはしゃぐでもなく、静かに波音に耳を傾けるだけだ。
 降ろした腰のすぐそばをシオマネキが通って行ったが気付いた様子もない。彼が何を考えているのか、本人以外には知る由もない。ただ瞳に海の闇を映す。
 彼の後方からは火が爆ぜる音と楽しげな声が聞こえてくる。高校生の合宿では夕食の作成すら一大イベントである。
 ユキはふとそちらに目を転じた。呼ばれたような気がしたのだ。
 黒い瞳に橙の火が写る。いまだ形を保っている風雲クユリ城越しに見える高校生集団は、各々包丁やおたまといった調理器具を手にしている。
「そろそろ作りはじめるよー」
 ジャージ姿の少女が、跳びはねながらこちらに向かって手を振っていた。ユキは後ろを振り向くが、暗い海が広がるばかりで誰がいるわけでもない。
「早く早く。ユキさん、こういうの慣れてるでしょ」
 名前を呼んでくれる同級生がいる。殺伐とした遺跡での戦闘中の掛け声ならともかく、こんなに朗らかに呼ばれるのはいつぶりだろうか。
 ユキは少し微笑み、返事の代わりに手を挙げて応えた。


「異常なし、と」
 浜辺からそう遠くない高台から暗い海原を眺め、式村醍は誰にでもなく、そう確認する。
「クラゲの野郎も出てこないようだし、今夜は平和かな」
 彼は一人、高校生の集団から離れ、周囲の警戒に当たっていた。贅肉をそぎ落とした太い腕がアロハシャツの袖から伸びる。心にやましい物を抱えていない限り、誰も彼を襲おうなどという愚行には及ぶまい。まさしく警備員にうってつけの人物だ。
 眼下に見える高校生たちはそれぞれ持ち場について夕食の準備を進めている。その中で指揮を執っているのはアヤ=イヅルギという医師の青年である。
「あいつ、白衣も似合うけど割烹着も似合いそうだな」
 そんな間の抜けた感想を闇に残し、醍は散歩にしか見えない哨戒を再開した。


 石を積んだだけのかまどの上、煮立つ鍋の周りで着々と夕餉の準備が進む。メニューはアウトドア定番のカレーだ。野菜を炒めて煮込むだけだし、少なからず料理が出来る者がいるのでまず失敗することはない。
 ただ、作る量がかなり多い。食べ盛り育ち盛りの集団の食欲を想定すれば、鍋も量が入る寸胴鍋にならざるを得ない。白飯を炊く飯盒もずらりと並んでいた。
 高校生たちはそれぞれ、米を炊く飯盒班、カレーを作るカレー班、焚き火の準備をするキャンプファイヤー班に分かれて作業していた。まとまりがあるように見えない集団であったが、班分けは自然と決まっていた。中にはあっちに行ったりこっちに行ったり、うろうろしているだけに見えるような者もいるが、きちんとそれぞれの班を手伝っている。

 カレー班である蒼凪零は、鍋の様子を見つつジャガイモの皮を剥いていた。料理は自宅でもしていたので包丁には慣れている。彼女はそれなりの手際で芋の芽を取りながら、ちらちらと視線をどこかへと泳がせていた。様子を見ればどうにも隣が気になるらしい。
 零の隣には真剣な顔で包丁を握る上四万十川がいる。
(危なっかしいなぁ)
 丸っこい手でどうやってつかんでいるのかわからないが、とりあえず柄は握れている。しかし包丁の先が震えていて、見ている者をひやりとさせる。零は何度止めようと思ったことか。
 上四万十川はまな板に人参を押し付け、刃を直角に立てた。いざ両断せんと息を吸い、止める。エプロンをつけた上四万十川の背に気迫がみなぎり、一瞬、羅刹が見えたような気がした。それも上四万十川に瓜二つ、牙が伸びて角が生えただけの鬼である。
 トン、と包丁が落ちて人参が二つに分かれる。
(何もそこまで真剣にならなくても……)
 もうちょっと力抜いたほうがいいよ、とアドバイスする。零は男性が苦手で、まともに喋れる相手は父親くらいしかいなかったのだが、何故か上四万十川だけは何の抵抗もなく話せる。それは彼を男性として認識していないことのあらわれなのだが、零当人はそれに気付いていない。
 アドバイスを受けて少しは肩の力が抜けたものの、なおも人参と格闘する上四万十川は微笑ましい。
(本当に日本人なのかなぁ。あれで手が切れて中から綿が出てきても誰もおどろかな――)
「――いたっ」
 スパンと気持ちのいい音が後頭部を直撃した。顔を上げると、真っ白なハリセンを肩に載せた青年が呆れたような顔をしている。もちろんハリセンは十分手加減してあった。
「ボーっとしてると危ないやろ」
 慌てて手元に目を戻すと、ジャガイモに大きな穴が開いていた。芋の芽を取るどころか、えぐりきって向こう側に貫通しそうだ。「ご、ごめんなさい」と零は呟きにしか聞こえない声で言いながら、そそくさとハリセンの主から距離を置く。測ったようにきっちり三メートル。彼女自身は意識していないが、身体は自然と距離をとるようになっていた。

「怪我すんなよー」
 零が別のジャガイモの皮を剥き始めるのを見届けて、青年は他の者にも注意を促す。先の勉強時間で教鞭をとっていたアヤ=イヅルギは、ここでもまた料理の指導に当たっていた。教えながら自身も包丁を握るが、その手際には卒がない。韮川などは間近でそれを見ながらコツを教わっている。
 そして手際のいい人間がもう一人。
「知視くんも器用ですねー」
 韮川が溜息をつく。黒騎知視は滑らかな手さばきで材料が様々な姿に切り出される。菊花切りや矢車切りといったベーシックなものから、鶴を象った大作まで、そのまま懐石の膳に出てきてもおかしくない。
「そうやなー、そこまでできるならいつでも嫁にいけるで」
 アヤのからかいを軽く受け流し、黒騎はなおも見事な腕前を披露していく。材料の球面を刃が半周しただけで、彼の手の中にウサギが生まれた。
「ところで材料は何ですか?」
 不思議に思って韮川が聞いた。見たところ、黒騎が切っているそれは人参でもなければジャガイモでもなく、もちろん玉葱でもない。
 黒騎は微笑み、洗ってざるに上げていたそれを持ち上げた。硬いんだか柔らかいんだか、黒いんだか虹色なんだか、とにかく形容しがたい物体がうねうねと彼の手の中で蠢いている。指の股から一筋流れ落ち、煙をあげて砂を溶かした。不思議なことに黒騎の掌は溶けていない。
「……それは食べ物ちゃうで。よーく考えなさい」
 額に汗を浮かべ、アヤは黒騎の説得に入る。ここでカレーがカレー以外の何かになることだけは許されない。参加者たちのためにも。自分の身体のためにも。
 だが、黒騎は至ってまともな常識人だった。心外と言わんばかりの表情を浮かべ、
「まさか。カレーに入れるなんてバカな真似はしませんよ」
 はははと軽く笑う。
「ですよねー」
「せやなー」
 つられてアヤと韮川も笑う。カレーに隠し味は必要だが、どうしようもない物体が入った日には食中毒フラグ成立である。明日の朝刊の三面に『高校合宿23名食中毒・原因はカレー』の文字が踊ることになる。もっとも、この島に新聞があったかどうかまでは定かではないが。
 そこに。
「オレも混ぜてー!」
 闇を割らんばかりに威勢のいい声が飛んできた。キンジだ。普段は遺跡内をローラーブレードで走り回っている彼も、この合宿にはビーチサンダルで臨んでいる。
 歳相応の無邪気な笑顔。しかし恐ろしい勢いで猛進してきたかと思うと、キンジはそのまま思いっきり黒騎の背を叩いた。
 体格においては黒騎も負けたものではない。線の細い容姿からは想像つかないほどの底力がある。おまけに日頃からなかなか隙を見せない彼のこと、この程度の体当たりはものともしない。
 しかし、午後一杯昼寝をしたためにキンジが元気一杯で、加えて黒騎が手元に集中していたのだとしたら。
「「あーーー!!」」
 どうしようもない物体は黒騎の手を離れ、吸い込まれるように――鍋の中へ。

「アーサーくーん!?」
 鍋を挟んで向かい側。そこからも聞こえた誰かの絶叫に近い悲鳴。
 そして飛来してきたのは――切ってもいない、洗いざらしの海藻。

 皆が見守る中、とぷん、と鍋の中に沈んでいく。


 アーサー・バーナード・クラーク・ダグラスは人間ではない。
 正確に言えば純粋な人間ではない。姿形こそ人間のそれに酷似しているが、柔らかな獣毛の犬耳と尾が彼が亜人間であることを示している。
 異なるのは容姿ばかりではない。嗅覚、味覚もまた犬に近く、人間より鋭敏だった。
 アーサーは今、鼻を鳴らしている。慣れぬ香りに戸惑いが消せないのだ。
「カレーってこういう匂いなんだ」
 ハーフドッグと言えど、ドッグフードを食べているわけではない。食事は人間と大差なく、スープやパンなどもごく普通に食べられる。しかし、それも味付けが薄めのものに限られる。
 アーサーは鼻頭を押さえながら鍋から離れた。人よりも敏感な嗅覚には、スパイスの香りは刺激が強すぎるようだ。
「僕は遠慮しておこうかな」
 他を手伝おうかな、とアーサーは辺りを見回す。何も準備はカレーだけに限らない。炊飯もあればキャンプファイヤーもある。火のそばに切った果実が並んでいるところを見ると、カレーの他にも何かを作るようだ。
「あ」
 そんな中、アーサーはとある物に目を留めた。彼が昼間に釣り上げ、天日に干しておいたあれ――白く粉を吹いた海藻。
 その海藻は今、望まれざる場所に収まっている。


 そう遠くないところで調理の様子を観察していた紅掛が近寄ってきた。手にしたメモ帳には材料から作り方から、事細かに書いてある。アヤが韮川にしたアドバイスも漏らさず書き込んでいるあたり、彼の真面目さが伺える。
 紅掛は鍋の中を覗き、ふむ、とひとつ頷く。鍋からはすでにカレーの色が消え、ドス黒く染まり始めていた。そして浮かんで見えるは海藻の鮮やかな緑。憎らしく思えるほどに綺麗な緑。
「こういうの見たことあります。闇鍋と言うんですよね」
「「いや、違う。違うから」」
 アヤと黒騎が揃って首を振る。韮川と零などは色を失い、涙目で抱き合っている。これからこのカレーらしい煮込みを食べることを思えば、それも無理ないことだ。
「か、海藻カレーって斬新だよね……」
 韮川が頬を引き攣らせるが、フォローにすらなっていない。
 鍋の周りは騒然としている。平然としているのは、同じくカレー班のユキと、そんなカレーを意外と冷めた目で見ている撫子だった。
 特にアヤと黒騎と韮川と零。四人が恐怖におののいていると、
「これも入れて入れてー」
 材料を切り終わったと見たか、クユリが無邪気に何かを持ってきた。彼女の手に余るくらい大きな瓶と、琥珀色の塊が入ったタッパである。それぞれ蓋を開け、スプーンで掬うでもなく、直に投入しようとおもむろに傾ける。
「待て待て!!」
 そのクユリをアヤが羽交い絞めにした。素早くユキが容器を取り上げる。鼻を近付けてみれば、瓶の中身は蜂蜜、タッパバターキャラメルだった。蜂蜜はともかく、バターキャラメルは隠し味になるのだろうか。いや、この量ではむしろ隠れずにメインになってしまう。
「これ以上はやめてくれ!」
 必死に止めるアヤに、
「えー。隠し味は必要やん」
 取り押さえられたクユリが文句を垂れる。
「もう入ってるからー!」
 なお、鍋の傍らでは膝を抱えて遠いところを見詰める碧少年の姿があったとかなかったとか。

「……どうしよう、これ」
 誰かが絶望の呟きを漏らした。幸か不幸か、カレー班の騒動に他の班は気付いていない。人間たちがドタバタしている間にも着実にカレーは煮込まれていく。香りだけがいまだにカレーなのが憎らしい。人間はスパイスの香りに食欲を刺激されてしまうのだ。もしかして食べられるのではないかと錯覚してしまう。
 クユリを取り押さえたまま、アヤは黒騎を見た。黒騎は撫子を見た。撫子は碧を見ようとしたが、遠い世界に行ってしまっていたので韮川を見た。韮川は震える零を見た。そして零はクユリを見る。クユリは羽交い絞めにされてもがいていたが、零と視線が合うと微笑んだ。
 棒立ちで鍋を取り囲んだまま、誰も動こうとしない。誰か味見してみろよ。皆、無言で別の誰かに目で訴えかけている。
「ご飯炊けたよー。……みんな何してんの? 鍋かき混ぜないと焦げ付くよ」
 そこに彩が皿に盛った白飯を持ってきた。彼女の後ろには大柄な結城が、やはり白飯を持って控えている。
 再び互いにアイコンタクトを図る。鍋いっぱいに作っておきながら、これは食べられないかもしれません、とは言いにくいのだ。
「カレーできてるならかけてくれる?」
 彩が皿を差し出す。炊き立てのつやつやご飯は実においしそうだが、誰も手を出そうとしない。鍋の周囲の三すくみ。しかし一人だけ、三すくみの輪から外れている者がいた
 皿を受け取り、ルーをかけたのはユキだ。彼は黙々とルーを掬い、彩と結城が差し出す皿にかけていく。その最後の一皿、おたまからなんか丸いものが転がり出てきたのは気のせいだろうか。
「ユキく……」
「これ、キャンプファイヤーの準備してる人たちのところに持ってってくれるかな」
(――ユキくん黒ーっ!!)
 どうにもまとまらなかったカレー班の心が今、ひとつとなった。
 何も知らない結城が持っていったカレー皿は――火を眺める二人の元へ。


「オウミさんてさ」
 遠巻きにキャンプファイヤー組の様子を見ていた梶井が声をかけた。
「そんなに桜庭さんが大事なの?」
 梶井と共に積まれた薪を眺めていたオウミは、突然の問いに頭をかきつつ、
「大事というか、まあ、僕は保護者みたいなものだから」
 視線はいつの間にかキャンプファイヤーではなく、カレー班のほうに向いていた。青い瞳は元気のいい少女と、どことなく気弱そうな印象の青年を映している。
「ふぅん……」
 話を振っておきながら、梶井は気のない相槌を打つ。ただ、梶井の身近な大人たちにはいないタイプだという感想を抱いただけだった。
「梶井さん、これ」
 二人の間にのっそりと結城が現れ、カレー皿を差し出した。オウミには盛りが多いほうを渡す。
「ああ、ありがとう」
「や、これは美味しそうだ。いただきます」
 オウミは礼儀正しく手を合わせ、一礼する。銀のスプーンで一口分掬い――

 ――ガリッ。

「オウミさん!?」


 ちょうどその頃。
 周囲を見回っていた醍は、唐突に悪寒を感じて空を見上げた。
 瞬く満天星の中、親指を立てるオウミの姿がうっすらと見えたような気がした。


 空いたカレー皿を膝上に置き、零は息をついた。得体の知れない物体に海藻にとどうなるかと思ったカレーだが、実はもう一鍋作ってあった。参加者が増えたために急遽おかわり用に作ったのが功を奏したのである。
 中には果敢にも海藻カレーに挑戦した猛者もいたが、皆揃って医師であるアヤの世話になる羽目に陥っている。そのアヤ当人もこっそり薬を服用していたのだが、零はそこまで見ていない。
 とにかくカレーの時間も終わり、今はみんなで焚火を囲んで談笑している。終始しかめ面だった級長の梶井にも穏やかな笑みが浮かんでいた。
(長い一日だったな)
 島に来る前の高校生活を思い出す。平凡な女子高生にすぎない零は、ここまで賑やかに一日を過ごしたことがなかった。文化祭に体育祭にと高校のイベントはたくさんあったが、こんなに盛り上がったことはなかったように思う。これほど無茶苦茶なことも起こらなかったが。
(そういえばクラスのみんな、元気かな)
 級友たちは受験勉強に励んでいるはずだ。きっとみんな予備校や塾に行っている。夏期講習でこってりと絞られながら、愚痴を垂れながら、それでも夢に向かって着実に力をつけている。海辺でのん気にカレーを食べているのは零くらいだろう。
 合宿への参加は零本人の意思だが、いまだにこれで良かったのかという疑問もある。
 燃え盛る火を見ながらそんな思案に耽っていると、
「蒼凪さんも食べる?」
 声が降ってきた。仰ぎ見れば、長身に涼やかな目の青年――この合宿に用務員として参加しているフェンネルがいた。
「ひゃ――」
 零は反射的に腰を上げた。男性と見るとどうしても体は勝手に逃げようとする。
「こらこら。これあげるから逃げないで」
 差し出された皿の上には焼き林檎。よく焼けたその上にはとろりと木苺のソースがかかっている。焚き火のそばで何かしていると思っていたら、こんなものを作っていたらしい。
 零は悲鳴を堪えてそれを受け取った。もちろん心臓は早鐘を打ち、早くこの場から逃げたい気持ちでいっぱいだ。
「楽しんでる?」
「は、はいっ」
「それはよかった」
 裏返っている零の言葉も気にせず、温かく微笑みかけてくる。
(青い目なんだ……)
 午前はスイカメイク、午後は脱走劇、他にも細々とした雑用に追われ、フェンネルは忙しい日中を過ごしていた。こうやってまともに顔を合わせるのは初めてだと思う。正面から見た顔は整っていて、父親とは違う優しさがある。
 不意に視線が合い、零は目を外す。
「あの、用務員さんは、その――」
「フェンネル」
「……はい?」
「今は用務員やってるけど、本業は別にあるんだ。蒼凪さんのことだからきっと合宿終わっても用務員さんって呼び続けるだろ? それはあまり嬉しくないから、今のうちに名前呼ぶのに慣れておいて」
「そ」
 れは無理、と続けようとして飲み込む。手の上の焼き林檎はまだ温かい。熱で温まったソースの甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。カレーを食べた後とは言え、甘い物は別腹なのが女の子。まさか合宿でこんな魅力的なデザートが出てくるとは思わなかった。早く食べてあげたいけれど、言わなきゃいけない言葉がある。
 合宿は非日常。こんな日の夜は少しだけ勇気を出してもいいかもしれない。
「ありがとうございます……フェ、フェンネル……さん……」
 蚊の泣くようなか細い声。最後のほうはほとんど消えていた。
「よくできました」
 それでもフェンネルは満足したのか、零の頭をぽんぽんと軽く叩く。
「冷めないうちに早く食べなよ」

 数分後。
「センセー! 蒼凪さんがー!」
 白目を剥き、泡を吹いている姿で発見されるのだった。



ENo.92   アーサー・バーナード・クラーク・ダグラス
ENo.164   梶井 玲人
ENo.220   韮川 百合子
ENo.371   七不思議
ENo.398   黒騎知視
ENo.426   紅掛 竜胆
ENo.561   上四万十川 蓮
ENo.600   フェンネル・ロックハート
ENo.650   式村 彩
ENo.872   桜庭撫子
ENo.947   クユリ=イヅルギ
ENo.994   篠居 雪笹
ENo.1433   結城 仁義
ENo.1917   オウミ・イタドリ

(ENo.順、敬称略)
(レンタル宣言非参加の方も勝手にお借りしています。申し訳ない!)

False Island
コミュニティ「高校生」
書いた人:蒼凪零(439)PL