とん、とトンファーの持ち手を打ち鳴らし、全身から力を抜く。目の前の地面には倒れ伏した野犬と歩行雑草。
「やっぱ格闘は苦手だなぁ」
足首を回しつつ、ぼやく。軽く捻ったのか、わずかに違和感がある。
「……トンファー使いなよ。蹴るなよ」
鞭を収めつつ、仲間の眼鏡白衣が呆れたように言った。
「いや、こういう武器はどうにも慣れなくて」
はははと笑う。
新しい武器を作ってやると言われ、適当に言ったら本当にトンファーがやってきた。だが、残念なことに私は中国武器の扱い方をよく知らない。気付けば一番慣れたやり方、蹴り技中心の攻撃となっていた。
もっとも、それも一応理由はあって、私は所詮女の身。手で殴るよりは足のほうがダメージが載る。しかも手持ちで一番底が厚いブーツを履いてきているんだから、そりゃ蹴るだろう。おまけに雪国仕様のスパイク付きだ。
そしてあの気色悪い歩行雑草を触りたくないという気持ちもほんの少し。
結果、トンファーは新品同然という有様で、作ってくれた人には少々申し訳ない。
「それよりはマシな武器だと思うんだけど」
眼鏡白衣が指した先には道路標識が転がっていた。恥ずかしながら、現在の私の主力武器である。どうしてこんな物が得物なのかは聞かないでくれると嬉しい。
トンファーをベルトに吊り下げ、転がしておいた道路標識を担ぎ上げる。
「ところで厘子さんは魔術使える?」
「あー、そういう人外な技術は無理。どっかの赤い人みたいにミサイルぶっぱなしたり、呪ったりなんてできない」
誰が人外だと言いたげに、どっかの赤い人もといクラストさんが私を睨む。
「性格にも合わないしね。ダイレクトに殴ってたほうがいいわ」
道路標識を肩に担いだ私のすぐ横を、唸るような音が通り過ぎていった。虫の羽音というには大きい。
続き、羽音がやってきた先の茂みから獰猛な唸り声。
「またか……」
顔を覗かせたのは、凶暴な面構えの獣だ。野犬が三頭、乱杭歯から涎を滴らせている。
「私たちを食べる気?」
「かもね」
やれやれ、また戦闘だ。
「これがこの遺跡の日常ですよ」
そろそろ休ませてほしいと呟きつつ、大きく肩を回した。