「ご依頼ありがとうございました!」
「……は?」
突然の声に振り返る。が、視線の先には誰もいない。空耳かと思ったところで、やや下につむじを見つけた。
随分と小柄な女の子だった。二つ括りにした髪の毛先を巻いている。大きな垂れ目がこちらを見上げていた。日本の成人女性の平均よりはやや高い身長にブーツの私。完全に見下ろす形となってしまっている。
女の子はそんな身長差にも負けず、小さな包みを差し出してきた。
「クラストさんからご依頼の品をお届けにあがりました」
「ああ、そういえばそんなこと言っていたような」
仲間の竜騎士が贈り物だかなんだかがあると言っていた覚えがある。その時は冗談半分と思って適当に聞き流していたけれど、どうやら真剣だったらしい。
ひとまずありがとうと礼を言って受け取る。女の子は柔らかく、でもどこか戸惑ったように微笑み、
「もしかして今流行ってるんでしょうか……? 今後ともぜひご贔屓に、よろしくお願いしますね」
そんなことを言って立ち去っていった。
どこか釈然としないながらも、渡された包みを開いた。
仲間から何かを貰うなんて、この島に来てから初めてだ。一応私は女だし、仲間も一応男である。仲間以上の関係になるとかまずありえないんだけど、なんとなく意味深な物を想像してしまうお年頃でもある。
「なんだろう?」
それは植物をモチーフにした、緑色の指輪だった。
と思ったら、韮を輪っかに編んだだけの代物だった。
私は無意識に駆け出していた。
ターゲット捕捉。利き足を思いっきり踏み込む。
「韮ってどういうことだクラストォッ!!」
右足をしっかり大地に叩きつけて軸とし、渾身の回し蹴りを放つ。助走と遠心力により加速された低い姿勢からの蹴りは、胴を払わんと唸りをあげる。
「お前にはそれがお似合いだ酒飲みが!」
対する赤毛の竜騎士は、易々と籠手で足の甲を受け流す。鉄板を仕込んだ特製ブーツなのに、あっさりあしらうんだから場数が違う。
姿勢を崩した私の背筋に手刀が叩き込まれた。刹那、目の前が暗くなったが意識は明瞭。手加減したのだろうとは思うが、一瞬息が詰まる。
「武具が欲しいと言ったのはお前だ。しばらくはそれを使え」
「もう少し乙女心考えろ!」
咳き込みながらも地に手をついて体勢を立て直す。そのまま、腰に吊るしたトンファを抜き取り、叩きつける。
が、それも翡翠の短剣に阻まれた。至近に迫り、トンファで押すが、さすがに腕力では敵わない。
「乙女って歳でもないだろう三十路!」
「私はまだ二十六だ!!」
歯を食いしばり睨みつけるが、じりじりと私は後退を余儀なくされる。
そんな竜虎相打つ、は言いすぎかもしれないけれど、そんな緊迫したところに、
「リンさん、僕からはこれを」
白衣眼鏡がのんきに言いながら何かを持ってきた。
ごろりと転がしたそれは、マンホール。
思わず硬直し、絶句していると、
「人任せにするとこうなるんですよ」
白衣の悪魔は眼鏡を光らせてそう言い放った。
うん、ごめんなさい。
もっとまともな武具が欲しいです。
..........
ENo.986 雨ヶ谷 風楽さんお借りしました