気が付けば、爽やか胡散臭いメガネのノルくんと、寡黙だけど時々変なことを口走るクラさんがいなくなっていた。
「別行動だったっけ?」
口に出したところで応えてくれる人はいない。
いや、案外近くにいるのかもしれない。今は見当たらないだけだ。
何をどうするとか聞いたような聞かなかったような覚えがあるけれど、思い出せない。記憶を飛ばすなんていうはしたない飲み方しないから、酒のせいではないだろう。ただ単に私が聞いてなかっただけ、だと思う。
持ち歩いている携帯端末の画面に指を走らせ、ページをめくる動作をする。液晶画面状の擬似的なノートがぱらぱらとめくられていくが、ずっと真っ白だった。打ち合わせの記録が残っていない。
わざと残さなかったのか、残すほどのことでもなかったのか。それすら覚えていない。
記憶にも残っていないんだから、割とどうでもいい内容だったのだろう。
電話で聞こうにも、あの二人は携帯電話なんてハイテクな物を持っていない。遠いところにいる従兄弟には連絡がつくのに、すぐ近くにいるであろう仲間にはできない。いかに現代日本が便利だったのか思い知る。
そしてまだ日本の生活習慣が抜けきっていない自分に驚く。
「一ヶ月も経てば慣れてくるもんだと思ったんだけど」
元々望んで来たわけじゃないから、無意識下では帰りたがっているのかもしれない。
何でかイライラしてきたので、目の前の箱を蹴ってみた。
中からごろりと小型の盾が転がり出てきた。西洋の防具、バックラーというやつに似ている。
そのまま置いていこうとも思ったけれど、見つけたものは何でも拾えと二人から口酸っぱく言われている。
とりあえずそれを拾い上げ、
「ノルくーん、クラさーん」
「ここだよー」
二人の名前を呼んでみたら、案外あっさり見つかった。