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Day35

「クラストさんが壊れた」
「は?」続き
「僕のクラストさんが壊れた」
 突然やってきたかと思うとそんなことを言い、うなだれる白衣の悪魔ことノルクさん。
「えーと……」
 ノルくんの元気がない様は、見ているこちらが心配になってくる。色んな意味で。
「叩けば直るんじゃない?」
「クラストさんは昔のテレビじゃないよ」
 リンリンってバカじゃないの? そう言いたげな目が、眼鏡の奥からこちらを見ている。
「壊れたって言ったのあんたじゃん」
 たしかにここしばらく様子がおかしかったのは間違いない。牛乳がどうのとぶつぶつ呟いていたり、魔石を結石だと言って私に押し付けてきたり。日頃から変態発言が多ければまったく気にしないものだが、普段が物静かで真面目な分、突然おかしな言動が始まると不安になる。色んな意味で。しかも真顔で言い出すから性質が悪い。
「疲れてるんじゃないの」
 煮詰まってどうしようもなくなって奇矯な行動に出るのは、人間しばしばあることだ。そうやんわりと擁護したのに、
「えー」
 白衣の青年は納得しない。
「ま、星に祈ってみればいいんじゃない? 七夕だし」
 なおも訴えてくる青年に短冊とペンを渡し、空を指差す。まだ日が落ちきらない黄昏の空にはまだ星はなく、薄っすらと白い月だけが浮かんでいた。

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