「……何なの、あのちびっこ」
黒い魔道衣がひらめいて、見上げた空の彼方へ飛んでいった。以前にも出会ったことはあったが、相変わらず行動がよくわからない。味方でないことは明白だが、私たちを襲ってくる必然性もわからない。
この島は本当にわからないことだらけだ。
「おっと、記録記録」
地面に倒れる虚ろな顔の人間、いや、人形を手持ちの携帯端末で撮影する。
人形のまぶたは開いたままだ。光がない目は何も映さず、ただ虚空に向けられているだけ。
屠れば姿は消えるかと思ったが、糸の切れた操り人形のようにその場にあり続けた。襲いかかってきた時はその姿はノイズが混じったように見えていたが、何らかの魔法の作用だったらしい。この人形は、本質としては固体として存在しているようだ。
いわゆる魔導兵器とかそういう類の物なのだろうか。私の国にも傀儡とか式神とかそういう魔法人形のような物はあるが、そのどれとも違うように思える。
「うーん」
撮影した画像を確認する。周囲の薄暗さもあいまって、青白い顔の人形はさながら人の死体のようにも見えた。
「誰かが使役している?」
無意識に疑問が口から出た。
元々この島に転がっていた人形にマナとやらが入り込み、動き出すようになったのだろうか。この奇妙な島ならばありえない話ではない。だが、こんな不気味な人形がその辺に転がっているものだろうか。少なくとも自然発生的なものには見えない。
となると、人形を作った誰かがいるはずだ。
「それが、敵?」
眉間に皺寄せ悩んでいると、
「リンリーン、遺跡の外に戻りますよー」
拾ったのであろう牙状の物体でノルくんが突っついてきた。
「悩むのは外での“お仕事”が一段落してから」
それだけ言って、白衣の後姿が消えた。文字通り、霞のように消えたのだ。
「人間なんだから悩むくらいいいじゃない」
消えた背中にそう言って目を閉じ、遺跡の外を思い浮かべる。数瞬後に再び開けば、転がっていた人形は消えている。有限の空も、石畳も。
目の前に広がっているのは露天の店が並ぶ市場と、溢れる冒険者たち。そして本物の空。
遺跡の外に戻ってきたのだ。
思い浮かべただけでその場所に移動できるという、この島の移動の仕組みもよくわからない。
この島の不可思議な現象も生物も、全てはマナで解決できるのかもしれないが、そのマナとやらの本質がまったくわからない。私から見ればまるっきり魔法だ。
「全部記録して全容解明とか無理じゃない?」
何も考えないほうが楽になれるかもしれない。溜息をつきつつ、見慣れた白衣を探すため歩き出した。