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Day41

 酔っ払いの拳と書いて、酔拳と読む。
続き

 一般的には飲めば飲むほど強くなるというでたらめな認識をされている拳法だ。
 しかし、実際は酔ったフリをして隙を突くだとか聞いたことがある。つまり、酒を飲んで戦う拳法ではない。

 そのはずなのだが。

「飲めば飲むほど強くなるそうです」
 酔拳はかなり異色な拳法だ。私もそれは映画やゲームの中でしか知らず、実際に見たことはなかった。
 それを使う羽目になったのはどこの神の悪戯か。
 あわてて師匠になれそうな人を探したが、この変な島でも習得者はほんのわずかしかいないらしい。しかも電話なんて便利な物はない場所だ。本人との接触すら難しい状況だった。
 しかし、この島のハードディスクとやらが壊れる前にはかつてそれなりに使い手がいたという。ハードディスクが壊れたことで人々の知識や経験は失われてしまったが、記憶から拾い上げた情報は何らかの形で記録されていたらしい。ノルくんとクラストさんはどこからかその情報を集め、私に教えてくれた。
 それがノルくんの、
「飲めば飲むほど強くなるそうです」
 だった。
 ノルくんの隣ではクラストさんが大きくうなずいていた。
 真剣な顔で何を言い出すのかと思えばこれだ。そしていつもこのパターンだったような気もする。
「これまでは晩酌は控えめにと忠告していましたが、今夜からは解禁します。好きなだけ飲んでください」
 と、ノルくん。
「何それ!?」
「常に酩酊状態または二日酔い状態でいろということだ。敵に不意を打たれてから飲んでは遅い」
 と、クラストさん。
 缶ビール一本ですら眉をひそめるこの二人から許可が出た。それがどうにも心に引っかかるのは、私が天邪鬼だからだろうか。
「あまり嬉しくないわ……」
「仕方ないでしょう。そんな変な拳法覚えてしまったんですから」
「でもさぁ」
 と、ここで前述の酔拳の話となる。
「だからさ、飲んで強くなるってのはおかしいと思うの」
「リンリンの世界ではそうだったかもしれないけど、この島の酔拳は飲まないとやってられない拳法です」
「本当に何なのよ、この島。酒にパワーアップアイテムでも入ってるって言うの!?」
 思わず頭を抱えてしまう。もちろん今は素面だから、この頭痛が二日酔いであるはずはない。
「それは……」
「それはあながち的外れでもないだろう。この島の物は全て何かしらマナの影響を受けている。お前が普段飲んでいるその酒にマナが浸透していてもおかしくない」
 珍しく説明してくれるクラストさんの後に、ノルくんの説明が続く。それも、語尾に音符だかハートマークだか付きそうなバカ明るい口調で。
「それが影響して強くなれるように、リンリンの体が最適化しちゃったってことだね」
 うわ、この人すごいいい笑顔してる。私が嫌がるの知っててやってる。それに対して、クラストさんのしかめ面はいつも以上に険しい。あまり酒が得意ではなく、アルコール臭も好まないと言っていたのはついこの前だったような覚えがある。
「手から酒が出るようになったのがマナの影響なら、出てくる酒は通常の酒よりもマナが濃いだろう。それを飲めばお前はもっと強くなれる」
「そんな自給自足勘弁だ!」
 自分の手から出た酒を飲む。さすがにそれはあんまりなので、しないように避けてきた。手を口に突っ込んで飲んでいる姿など、情けなくて誰にも見せられない。見せたくない。想像したくもない。
「この先に進めばもっと強い敵が出る。それを打ち破るためにも我々は手段を選んでいられないんだ」
 だからやれ、と言わんばかりにクラストさんが私の肩に手を置く。その手がやけに力強く、逆に私の体は脱力する。
「もう嫁に行けない……」
 その場に崩れ、すすり泣く。ノルくんはそんな私の傍らに寄り添うようにしゃがみ込み、優しくそっと頭を撫でてくれた。
「アルバさんを落として玉の輿とか」
 思わず手から発射した酒水流で吹っ飛ばしてしまった。

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