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interlude

某ゲームの前期と今期の間の話。
どこで公開するべきかわからなかったので、ひとまずここに置いてみます。

続き


『鹿倉……鹿倉!』
 ヘッドセットを通してがなり立てる声で目が覚めた。
「っと、悪ぃ、寝てた」
『寝落ちてんじゃねぇよ、ボケ』
「あー、うん。すまん」
 目蓋を擦り、欠伸をする。体が寝起きのように気だるい。
 聞き慣れた電話の声。相手は情報屋の百瀬だ。話題はこのたびの経済危機による俺の生活危機について。OK、完全に思い出した。
『で、お前んとこの損失どんだけいったよ』
「データ出すからちょっと待て」
 片手でキーボードを叩きつつ、もう片手でマグカップの中のコーヒーを煽る。まだ暖かい。喚ばれた時と帰ってきた時とでほとんどタイムラグがないようだ。
「何も変わってねぇのかよ」
『あ? 差し引きゼロか?』
 耳ざとく聞きつけた情報屋が、実に不愉快そうに言った。
「バーカ。ゼロで済むかよ」
 現在の残高を読み上げる俺の声は、思っていたよりも落ち着いていた。もちろんマイナス値はこれまでにないくらいで、明日の生活も危ういくらいとなっていた。
『これからどうすんだよ』
「バイトでもするしかねぇかな」
『毎月の収入が十万程度の小金か』
「無理だ。耐えられん」
 開いた掌は白く、指の腹も柔らかい。マメだらけだったあの手は、本当に俺の物だったのだろうか。
 戻ってきたのはつい先刻のことだろうか。英雄と呼ばれた魂たちとともに、夜の世界で戦っていた日々が遠い。
「夢だったのかよ」
『夢なわけあるか。テメェの前のグラフ、それが真実だ」
 四台のモニタをぼんやりと眺めた
 痙攣しながら下降していく直線の群れ。これがこの国の、いや、世界の経済状況を示しているとは笑い話にしか思えない。
「百瀬」
『あん?』
「悪ぃ、少し寝かせてくれ」
 通話終了。モニタの電源だけを切る。防音完備の静かな部屋で、パソコンだけが低く唸る。
 大した家具もない、殺風景な部屋だ。室内で一番大きいのは細長いテーブルで、四台のモニタが鎮座している。
 これが俺の現実だ。
「まあ悪くはなかったかな」
 ベッドも兼ねているソファに横になって天井を見上げた。体は元のままだが、魂にはたしかに刻み込まれている。
 異世界の記憶と、異世界の英雄たち。現実とはかけ離れた剣と魔法の世界で剣を取り、襲いかかる異形の物を斬り伏せる。
 殺伐とした城取り合戦がつまらなかったと言えば嘘になる。ここにはない現実、ここにはない刺激、本当の殺し合い。それはまるでリアルなゲームのようで、少なからず俺は心のどこかで楽しんでいた。
 しかしいつもわだかまっていた疑問がある。召喚
士が召し寄せたのはいずれも力ある者たちばかりだ。あるいは英雄と呼ばれ、あるいは魔王と呼ばれたような、様々なエキスパートたち。そんな中、庶民代表としか言いようのない俺が何故喚ばれたのか。
 何度も喚び出した本人に確かめようと思った。けれど召喚士は護衛に守られていてなかなか近付けず、それどころかある日唐突にこちらに戻された。
 結局俺は聞く機会を逸してしまったというわけだ。
 夜に慣れた目には、白い天井が眩しい。
「何だったんだろうな」
 呟いても一人だ。友達もいない、恋人もいない。情報屋とは電話だけのやり取りだ。奴は滅多なことでは顔を見せようとしない。
 取引の時間に合わせた規則正しい生活であるが、向き合うのは生身の人間ではなく、数字が並ぶモニターだ。
 むせ返るような血の匂い。埃一つない、清潔なだけの部屋。どちらに人としての生命が宿っているだろうか。
 俺は、飢えていたのかもしれない。

 亡羊とした意識の中、天井が揺れていることに気付いた。覚えのある眩暈に身を委ねる。
 少しは休ませろよ馬鹿召喚士。
 心の中で悪態をつきながら、俺はソファに深く体を沈めた。
 体はこのまま、魂は向こう側へ。

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