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父と子の往復書簡・2日目

時計 2007/05/14

拝啓

だんだん暑くなってきましたが、お父さん、お元気ですか。
季節の変わり目で風邪引いていませんか。
お仕事は見つかりましたか。
お仲間にいじめられていませんか。

私は島に来てから一日が経ちました。
知らない人だらけで不安でしたが、幸い、人を紹介してもらえたので、初日はその人を探していました。
珊瑚さんという素敵なお名前の方です。
紹介状に添えてあった手紙によると、料理が得意で美人さんで、動物にも優しい方なのだそうです。
確かな筋からの紹介なので本当に信頼できる人だと思います。
それで前述の通り、珊瑚さんを探して、すぐに見つかったのですが……

珊瑚さん、男性でした。

お名前から女性の方と思い込んでいたので大ショックです。
しかも珊瑚さんというのは通称みたいなもので、本名は鬼城勝さんというちょっと怖いお名前でした。
そういえば手紙には女の人だなんて一言も書いてなかったな。
たしかに優しそうな方だし、声も素敵だし、見たことないくらいの美形さんなんだけど、私、ちょっと無理かもしれません。
お父さん以外の男の人となんて、滅多にお話ししたことないんだもん。
どうしよう。
でも他に知ってる人もいないし、珊瑚さんについていくしかないんだけど、本当にどうしよう。

これも試練なのでしょうか。
もっともっと強くなりなさいっていう神様の思し召しなのかも。
零はもう少しだけ頑張ってみます。
もしも逃げ帰っても、怒らないで下さいね。
それでは、身体だけは注意してください。弱いんだから。

またお手紙します。

敬具

続き
* * *


零へ

元気そうで何よりです。
お父さんも元気にやってます。
仕事は相変わらず見つからないけれど、アルバイトのほうは順調です。
毎日料理を作っているだけのような気はしますが、特技を生かせるなら幸いと思っています。

ところで、その珊瑚さんという人はどんな人ですか?
歳は? 性格は? 学歴は? 家柄は?
何かされたりしませんでしたか?
いい人ならばいいけれど、男はみんな狼です。
油断だけはしないでください。

口うるさい親だと思われるかもしれないけれど、零が心配でたまりません。
零に彼氏ができたらと思うと卒倒しそうですが、お父さんは零が選んだ人ならば祝福します。
だけど、お父さんより年上だけはダメだよ。絶対ダメだからね。
これだけは心得ておいてください。

寂しくなったらいつでも帰っておいで。
零まで出稼ぎする必要はないんだからね。
無理だけはしないように。


追伸:
去年漬けた梅干を送っておきます。酸っぱい物は疲労に効くから疲れたら食べてください。
無くなったらまた送ります。

それと、そちらにお父さんがお世話になった方がいらっしゃると思うので、ご挨拶してきなさい。
壱哉の娘ですと言えばわかると思います。