ピッ
留守番電話サービスです。
メッセージをどうぞ。
もしもし? 十和子お姉さん?
零です。
昨日、そちらに荷物を発送しました。
数日中に届くと思うので、お父さんに渡してください。
よろしくお願いします。
十和子さん。
いつもお父さんと私の心配してくれてありがとうございます。
ずーっと迷惑かけっぱなしだよね。
落ち着いたらいっぱいお礼するから!
お姉さんが好きな食べ物いっぱい買っておうちに行くから!
だからもう少しだけ、親子ともども甘えさせてください。
もう行かなきゃ。
またメールしますね。
では。
ピッ
メッセージをお預かりしました。
* * *
――島ではない何処か。
色づいた葉もすっかり落ち、昼でも忍び寄る冷気に身を縮める季節。弓道場に一人座し、壱哉は瞑想していた。
五十射の内、的中したのはわずか十射。皆中すればいいというものでもないが、それまで中っていたものが中らないのは心の乱れの表れである。
悩みばかりが深くなる。悩めば腕を鈍らせる。
頭でわかっていても心は晴れず、壱夜は胸の裡に鉛を抱えていた。
困ったな、と呟いたところでどうにもならない。薄く目を開ければ、一本しか的中していない的が見える。ひっそりと溜息を漏らした。
「随分鈍ったわね」
背後から声がかかった。首をめぐらせて見れば、従姉の蒼凪十和子が箱を抱えて戸口に立っていた。的を見て、呆れたような顔をしている。
「……精進します」
返す言葉が見つからず、やむなく壱哉は苦笑する。
その壱哉の傍らに、十和子は箱を置いた。
「あんたに」
「誰から?」と目で問う壱哉に、十和子は「開けてみなさい」と顎をしゃくる。腰に手をあて、上から見下ろしてくる姿は反論を許さない。渋々、差出人が書いてないそれを膝の上に置いた。丁寧に包まれた茶紙を破り、箱を開ける。
「あ」と壱哉の顔が驚きに変わった。
箱の中から取り出して目の前に掲げ、広げる。深青の毛糸のマフラーが冷たい風に揺れた。
送り主の名前は聞かなくてもわかる。壱哉が一番好きな色を知っているのは、一番近いところにいる人だけなのだから。
「いい子に育ったね」
道着の上からマフラーを巻く。それが温かに包んだのは開いた襟元だけではない。
「自慢の娘ですから」
首をすくめて口元まで覆う。爽快なミントの香りに一時悩みを忘れ、壱哉は小さく微笑んだ。