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Day32 -interlude

 幸か不幸か。
「というわけで、そこがラブのはじまりだったんでつ!」
 零のことをよく知っている人物が島に残っていた。

 幸は、この人物が零と極めて仲が良かったこと。
 不幸は、いまひとつ話が要領を得ない点である。
続き

「えーと」
 木陰に座り、膝の上に“その人”を載せている。片手にはビール缶。傍から見れば昼酒に興じる駄目な大人そのものであり、有意義な情報収集と胸を張って言える様ではない。
「ふたりは意識しまくっているのになかなか素直になれなくて」
 “その人”は身振り手振りを交え、さながら講談師のように語って聞かせてくれる。
「ねえ、てんちょーさん」
「なんでつか?」
 くりっとした人形の瞳がこちらを見上げる。
「なんでそんなに詳しいの?」
「ずっと傍で見ていたからでつ!」
 時には純情な乙女に、時には無骨な戦士を演じつつ、“その人”の話は続く。
 正確には人ではない。朽ち果てたコンビニエンスストアに残っていた小さな人形だ。どういう仕組みになっているのわからないが、この人形は滑らかに動き、喋る。そしておそらく人と同程度の知能もある。ジョークや皮肉すら口にするのだ。魔法のアイテムと言うにはあまりにも人間染みていて、誰かが遠隔操作しているのではないかと疑ってしまう。
 すっかり私のサボり場所として定着したこの場所に、どうしてこの人形がいるのかは知らない。ただ、かつての常連がこの人形を『店長』と呼んでいたので、私もそれに倣った。
「恋のせいではなさそうだなぁ」
 膝上の講談を聞き流しながら四本目のビールを開ける。こんなところを仲間に見られたら折檻確定だけど、うまく撒いてきたから問題ない。

 マナが濃い島にいるのに、魔法使いになれない私。

 壱哉に聞いたら、それは純粋にキャパシティの問題らしい。私には濃密なマナを受け止めるだけの器がない。器が小さすぎるから、溢れたところで大して問題もないという。
 対して零は器が大きすぎた。自身に蓄積していくマナはちょっとやそっとの量じゃない。
 だから零は少しでも容器の中身を消費しようとした。もちろんこれは意識してやっていたものではない。無意識だ。無意識に大技を連発して、できるだけ体の中のマナ量を減らそうとしていた。
 見えないマナを受け止めるキャパシティなんて漠然とした話だけれど、なんとなく理解はできる。
 それでも納得できないのは、零が大技を使うために“最適化していった”という点だ。
 この島では、零は精霊を使わずに術式が使えた。私たちの世界の人間は精霊がいなければ術式は使えない。そういうものだったはずだ。
 もちろん、零が私たちの世界における特異点だった可能性もある。けれど、この島に来るまでは精霊抜きでの術式行使ができなかったことは、多数の人から証言を得ている。
 この島に来てから零は精霊無しで術式を使えるようになり、かつ高速詠唱及び高速構築が可能になった。
 この辺りについては詳しく説明してくれたけれど、私の知識での理解はそこまでが限界だった。

「聞いてるんでつか!」
「聞いてます! 聞いてますってば!」
 “店長さん”の短い手がビール缶を叩く。開けたばかりの缶から泡が飛び、“店長さん”と私の手にかかる。それをハンカチで拭きながらぼんやりと考える。
 この島で力が増大した、あるいは減少したという事例は何件か聞いた。けれどそれらは全て他の国の人の話で、まったく参考にならない。かといって、今の話もあまり頼りになるものでもなかった。
 “店長さん”が話すのは、私に近い身内の話だ。彼女もかつてこの島を探索していた招待客の一人だった。
 しかしその身内の話も、多少変わったところはあれど、ありふれた恋愛話のようだった。むしろ、あまりの甘酸っぱさに聞いていて恥ずかしくなってくるような代物だ。果たしてそこに手がかりはあるのだろうか。
 恋が人を変えることはままあれど、それでマナの吸収量が変わるとか、魔術が使えるようになるとか、それは少々考えにくい。
「しかし受験生の身の上ではバレンタインにうつつを抜かすこともできず」
 まだまだ続く講談を話半分にしつつ四本目をあおり、五本目に手をかける。
「飲みすぎでつ」
 また手を叩かれたけれど、お構いなしにプルタブを開けた。

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