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Day33 -interlude

 古来より我が国を守る五つの家系があった。
続き
 蒼凪、朱門、翠雅、玖路、香亜。
 それぞれの家には役割があり、時には協力し、時には敵対しながらも護国を担ってきた。
 護国と言っても、軍備で自衛するわけではない。ましてや外交で他国家から守っているわけでもない。対外でなければもちろん対象は国内に向かうわけだが、政治でもって国民を守っているものでもない。
 五家が守っているのは、国土に根差したモノ。人々の生活を脅かし、国土の平和を覆さんと企んでいる。それらは魔を糧とし、不可思議な術で人と国を陥れる。
 私はそういう風に教えられた。
 そんな古臭い家々の慣習はともかくとして、その五家のうち、蒼凪、玖路、翠雅の三家がこの島に興味を持ち、そして誰かを調査員として派遣することで話がまとまった。
 その調査員がこの私、蒼凪厘子だ。

 何故この島を調査するのか。
 目的は明白だった。
 この島が蓄えている力の謎を解き明かし、あわよくばその技術、あるいは源を持ち帰ること。

 あの国はもう駄目だ。
 科学立国として急進してしまい、人は神や魔法を信じなくなった。そのせいか、呪術的に護国を担う五家も急速に力を落とした。力を持つ者が生まれなくなったのだ。
 かつてであれば私のようなろくに術式も使えない人間なんか見向きもされなかった。なのに今はこんなみそっかすの私ですら駆り出される有様だ。
 そんな状況でも五家は諦めが悪かった。
 あの島にはマナと呼ばれる術素のようなものが満ちているらしい。そしてそのマナを我が国にも満たせば自分たちは復権する。そして護国もさらに強化できる。
 祖父たちはそんなことを考えている。

 けれど、私は衰退するままに任せておけばいいんじゃないかと思う。
 現実に、五家の人間だけが衰退したのなら力の回復を図るのは当然だろうけれど、戦うべき相手も弱ってきているのだ。
 人は神も魔法も信じなくなった。なぜならそれは必要としなくなったからだ。信じてもらえない神は力を失う。存在が希薄になり、やがて消える。
 それがひとつの時代の流れだし、どこかにいるかもしれない主神とか大いなる意思とかいうやつが決めたことなのだろう。

 私が何も得られなければ五つの家は力を失う。市井の家と同じ、ごくごく平凡な家となる。
 元々私は普通に近い家の生まれだから、蒼凪の家が力を失ったとしても何も変わらない。他の人よりちょっとだけ感度がいい程度の霊感もなくなるだろう。こんなお役目から外れ、就職先を見つけ、以前のようにありふれた社会生活を営むことになる。そしてうまく行けばごく当たり前に誰かと出会い、誰かと結婚して蒼凪の家から外れることになる。
 本当に?
 この面倒な生活から離れ、あの小さな自分の部屋に帰れる?

『リンリンは魔法使いになりたいの?』

 ふと思い出したのは、仲間の問いかけ。
 なりたいとは思わない。思っていない。

 この島には財宝が眠る。
 それを持ち帰るには七つの宝玉がいる。
 七つの宝玉はどうやらマナの塊らしい。
 それを手に入れたら島から出られるのだろうか。
 それを手に入れたら、魔法使いに――

 もしも宝玉とやらを見つけたら私はどうするんだろう。

「どうすっかなー……」

「リンリーン」

 つまらない呟きは仲間の声に消され、風に溶けていった。

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