開いて閉じて、また開く。
携帯電話の待受画面にはいつもと同じ画像が表示されるだけ。何を待っているわけでもないけれど、あまりにもの変化のなさが少しだけ寂しい。
元より友人が多いほうではない。一日に来るメールの数などたかが知れていたが、島に来てからは驚くほど来なくなった。十和子からの定期連絡と、思い出したようにぽつぽつと来る友人からの消息伺い。それも長くは続かず、二、三度の往復で途切れる。他は皆無に等しい。
不思議なことに、遺跡の中でもアンテナが立つ。感度はあまりよくないが、完全に圏外ではないようだ。電波塔や発電設備が見当たらないのに、どうして電話が通じるのか。何が起こっても不思議でないこの島で、いまさら気にしても仕方がないのかもしれない。同じように携帯電話を持ち込んでいる式村彩に聞いてみたら、「通じればいいんじゃない」というような返事だった。
――菅原さんたち、大丈夫かな。
電話が通じるなら連絡も容易だが、あいにくと仲間の番号を知らない。そもそも、携帯電話を所持しているのかどうか聞いたこともない。仲間の少年も高校生のようだから、持っていてもおかしくはないのだが。
――外出た時にでも聞いてみよう。
アンテナが一本だけの携帯電話を閉じる。閉じて、思い直してまた開き、メールを打つ。宛先は蒼凪十和子。父の従姉にあたり、零の姉代わりのような女性だ。彼女に連絡を取れば、父親の消息も大体わかる。父親は何故かメールを嫌がるので、連絡を取るとなると電話か手紙を書くしかない。気持ちはわからないでもないが、正直言って面倒な気持ちもないわけでもない。
少し長いメールになりそうだった。壁にもたれ、両手で電話のキーを打つ。本当は遺跡の中で、立ち往生しているのはよくない。どこに何が潜み、いつ襲いかかってくるかわからないからだ。
首から垂らしたイヤホンは音楽を流し続けている。爽やかな歌声と疾走感のあるサウンド。大音量で聴きたいが、今は外の音を遮断するわけにはいかない。
メールを打ち終わり、携帯を左右に振ってみて、地面に向けてみて、天井にかざしてみる。アンテナが良好な場所を探して、あちらこちらに小さな機械を向けてみる。
「あ」
辛うじて電波をつかまえ、メールを送信したところで声が漏れた。バッテリー残量を示すメーターが短くなっている。見れば、愛用のポータブルオーディオも電池残量がわずかだ。
「どうしよう」
なくなって困るわけではないが、まったくないのも心もとない。予備の電池パックはない。雷が操れるという仲間に充電を頼んで預け、そのままになっていた。
零の目がさまよい、床に横たわる鳥の姿を捉えた。突然襲ってきたので、思わず撃墜してしまった霊鳥だ。探索者たちがサンダーバードと呼び、その電光石火の早業を恐れている鳥である。今は零の魔術に身を打ち抜かれ、腹を天に向けて横たわっている。
しかし、あっさり魔術に屈したとはいえそこは霊鳥。ただの鳥とは地力が違う。か細いながら息は絶えていない。たくましい体の表面に、幾筋もの細い紫電を這わせている。放っておいても死ぬことはなさそうだ。
少しだけ考えて、
「やってみるだけやってみよ」
携帯電話とポータブルオーディオを霊鳥の腹の上に置いてみた。
そして少しずつ回復していくバッテリーにこっそりほくそ笑むのであった。