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父と子の往復書簡・45日目

時計 2008/07/02

お父さんへ

お元気ですか。
お手紙ではおひさしぶりです。
しばらく十和子さんに携帯で連絡するばかりで、しばらくお手紙を書いていませんでした。
ごめんね。

そちらはもう梅雨に入ったと思います。
こちらは遺跡の中なので、いまひとつ季節感がありません。
春になれば花が咲くし、冬になれば落ち葉が積もると思うんだけど、日本のようにはっきりとした四季ではないようです。
砂漠はいつも暑いし、山はいつでも緑だし。
人口建造物の中に砂漠や山がある時点でおかしいんだけどね。
それでも最近は少し湿っぽいかな。
水の守護者のところに向かっているからかな?

今、私はみなさんと離れて一人で行動しています。
というのも、私だけ水の宝玉を持っていないからです。
みなさんは宝玉三つ持っていて、私は二つだけなの。
一人だけリソース少なくて足手まといになるのは嫌なので、水の宝玉を取りに行くことにしました。
本当のことを言うと、一人では行動したくありません。
広くて薄暗い回廊を独りで無言で歩いていると、とても不安になります。
音楽でも聴けば気が紛れるのかもしれません。
だけど突然の襲来のことを考えると、周りの音が聞こえないのは不利です。
誰かと一緒にいればおしゃべりもできるのにね。

こんなに心細くなったのは、鬼城さんたちと別に行動することが決まった日以来です。
鬼城さんやエリカさんたちは私なら大丈夫と言って送り出してくれました。
あの日に比べれば、私も少しは戦うことに慣れたかもしれません。
だけどね、やっぱり怖いんだ。
自分の身を守るためとは言え、誰かを傷つけるって怖いことだよね。
そして、それに慣れちゃう自分はもっと怖いよね。
そんなこと言ったら他のみなさんには笑われるかもしれない。
お父さんならこの気持ち、わかってくれるかな?

ん、湿っぽい話してごめんなさい。
雨続きの中、体調を崩したりしていませんか?
夏風邪はたちが悪いので気をつけてください。
それと、変なもの食べたりしないでね。

私はもう少しで水の守護者のところに辿り着きます。
できれば話し合いで済ませたいな。
無事帰れたらまたお手紙します。

ではまた。


続き
* * *


零へ

手紙ありがとう。
お父さんはどうにか元気にやっています。
昨日まで十和子さんの家に泊り込みでした。
大きな仕事が入ってしまって忙しいとのことだったので、僕が代わりに家事をしていました。
梅雨の季節ではあるけれど例年より晴れ間もあったので、十和子さんの家を隅々まできれいにしてきました。
風呂も新品のようになりました。
お父さんはもうカビ取りのプロです。
履歴書の特技欄に書けるものが増えました。

そんな僕の近況はともかくとして、零は戦うことに悩んでいるのかな。
そちらの島は弱肉強食だから、やらないとやられるという環境だと思います。
自分の身を守るため、そして大切な人を守るためには強くなければなりません。
そのために持てる手段を使うのは悪いことではありません。
もちろん使っちゃいけない力というのもあるし、相手を痛めつけるだけを目的とした暴力もよくないです。
でも、零は力の使い方を知っている。傷つくことの痛みも知っている。
状況にあわせてより良い使い方を身に着けるのは、慣れじゃなくて成長って言うんだよ。
大切なのは気の持ちようです。
零は臆病なままでいいんだよ。
相手のこと思いやることだけは忘れずに。

水の宝玉、無事手に入ることを祈っています。

父より