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父と子の往復書簡・55日目

時計 2008/09/19

「今、何と仰いました?」
 遺跡の外の、少し開けた広場に市が立っていた。素人商人が各自の戦利品を持ち寄って売り買いし、時には各種製品の作製請負もする場である。
 その一角、茶を飲めるスペースで零は一休みしていた。露天に椅子とテーブルを並べただけの店ではあるが、零のような探索者たちにとっては文明的な休息を取れる貴重な場であった。
 遺跡の外に出れば取引と補給に追われてなかなか忙しい。仲間たちも銘々買出しに走り、散り散りとなっていた。この市場の何処かにはいるのだろうが、人混みに紛れて姿が見えない。
「だから、明日はエドさんと一緒」
 黒目黒髪、学ラン姿の青年が零にそう告げる。出会った頃よりもまた背が伸びたように思える。それとも低いところから見上げているからそう見えるだけなのだろう。
 もっとも、そう思ったのは一瞬だけのことで、零は青年の言葉に容赦のない現実を見る。目が眩む。もう夏は過ぎたはずなのに、市場の向こうに陽炎のようなものが見えた。視界が揺れる。

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