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父と子の往復書簡・64日目

時計 2008/11/29

「文化祭?」
「そ。さすがに知らないとか言わないよね」
 不思議な島の片隅にある、制服着用の学生ばかりが集う場所。
 同年代と談笑していたところ、親友から声がかかったのがつい先刻のことだった。
「それはない、けど」
 式村彩はいつものブレザー姿だったが、右腕に腕章をしていた。そこには「文化祭実行委員長」とある。
「本当にやるの? この島で?」
「みんながやりたいーって言うからさ、やってみようと思って」
 そう言って笑う彩に、零は「はぁ」と気の抜けた返事しかできない。
「何をやるの?」
「まだ知らない。みんなにお任せ」
「はぁ!?」
 あまりにも行き当たりばったりな答えに、思わず素っ頓狂な声が出た。
「桜庭さんとかもうノリノリだったよ。つかまったら手伝わされるんじゃない?」
 ああ、と零は納得する。一見お嬢様風のあの少女は、きっと連れの少年とともにはりきって準備しているのだろう。情景が目に浮かぶようだ。
 彼女のバイタリティが零はとても羨ましかった。
「そういえばあんたにって手紙預かってるよ」
 彩はスカートのポケットを探り、茶色い事務封筒を取り出す。
「手紙?」
「そ。紙袋かぶった変な男から」
「紙、袋……?」
 不審げに眉根を寄せる零の手の中に、彩は強引に封筒を押し込んだ。
「じゃ、私は準備があるから!」
「え、あの、待って!」
 呼び止める間もなく、親友は風のように去っていった。

 開いた封筒には一枚の紙が入っていた。
 ノートの切れ端にしか見えない紙は三つに折り畳まれ、「最重要任務」と赤い判子が押してある。
 何だろう、とドキドキしながらそっと開いた。

「え、え、ええええええーーーー!!!?」

 そこには一筆、こう書いてあった。


 ミスコンの司会やってね☆  紙袋の紳士より



 そして文化祭の幕開けへ――