吐く息が白い。
少女はかじかむ手を自身の吐息で温める。
季節は巡り、再びの冬。
遺跡の中、正体の知れぬ宝玉を探す日々。
屋内とは思えぬ自然が広がる遺跡を駆けずり回る。
潜ってから今日は何日目だっただろう。
少女は日に焼けて白くなった砂の上に佇む。
実家で雪は降っただろうか。
寒がりの父親は風邪を引いていないだろうか。
青いマフラーを口元まで引き上げて、少女は天を仰いだ。
そこにあるはずの天井はなく、灰色の空だけが広がっている。
どういった異常気象なのか、砂漠であるにも関わらず、静かに雪花が舞っていた。
ふと先を見ると、細長い物が砂に埋もれていた。
掘り起こしてみれば、一本の赤いロウソクだった。
ロウソクにはカードが添えられている。
『 ― 聖なる夜に灯してください ― 』
宛先もなければ差出人もない。たった一言、それだけ。
どうしてこんなところに落ちているのだろう。
不思議に思っていると小柄な少年がやってきて、
「火、点けましょうか?」
静かな笑みを浮かべた。
少年は手をかざし、小さく文言を唱える。
小さな小さな炎の魔法。
火を灯すと橙色の明かりが広がった。
もはや黄昏と言っていいほどに濃くなった闇の中、少年の白い肌もオレンジに染まる。緑色の髪は色の深さを増す。
長い耳の先が赤くなっていた
少しだけ考えて、カバンの中から包みを取り出した。
「はい、どうぞ」
少年は目を丸くして包みを見て、少女を見た。
「私の故郷にはクリスマスっていう行事があってね」
異国の宗教、異国の行事。けれど街が明るく彩られる日。
一通り説明をして、少女は改めて少年に包みを手渡した。
少年が包みを解くと、中には明るい緑のマフラーが一本。広げるとほのかにミントの香りがした。
「作ったのはいいけれど、あげる人がいないの。よかったら使ってね」
言って、少女は少年にふわりとマフラーをかけた。
「ありがとうございます。ならば僕からはこれを」
少年は手にしていたロウソクを少女に差し出した。小さな炎がゆらりと揺れた。
「貴女の心に、あたたかな光を」
辺りを見渡せば、そこかしこに同じようなオレンジの光。
降りしきる雪の中、それは地上の星のように見えた。