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父と子の往復書簡・67日目

時計 2008/12/22

 吐く息が白い。
 少女はかじかむ手を自身の吐息で温める。

 季節は巡り、再びの冬。

 遺跡の中、正体の知れぬ宝玉を探す日々。
 屋内とは思えぬ自然が広がる遺跡を駆けずり回る。
 潜ってから今日は何日目だっただろう。
 少女は日に焼けて白くなった砂の上に佇む。

 実家で雪は降っただろうか。
 寒がりの父親は風邪を引いていないだろうか。
 青いマフラーを口元まで引き上げて、少女は天を仰いだ。
 そこにあるはずの天井はなく、灰色の空だけが広がっている。
 どういった異常気象なのか、砂漠であるにも関わらず、静かに雪花が舞っていた。

 ふと先を見ると、細長い物が砂に埋もれていた。
 掘り起こしてみれば、一本の赤いロウソクだった。
 ロウソクにはカードが添えられている。
『 ― 聖なる夜に灯してください ― 』
 宛先もなければ差出人もない。たった一言、それだけ。

 どうしてこんなところに落ちているのだろう。
 不思議に思っていると小柄な少年がやってきて、
「火、点けましょうか?」
 静かな笑みを浮かべた。

 少年は手をかざし、小さく文言を唱える。
 小さな小さな炎の魔法。

 火を灯すと橙色の明かりが広がった。
 もはや黄昏と言っていいほどに濃くなった闇の中、少年の白い肌もオレンジに染まる。緑色の髪は色の深さを増す。
 長い耳の先が赤くなっていた
 少しだけ考えて、カバンの中から包みを取り出した。
「はい、どうぞ」
 少年は目を丸くして包みを見て、少女を見た。
「私の故郷にはクリスマスっていう行事があってね」
 異国の宗教、異国の行事。けれど街が明るく彩られる日。
 一通り説明をして、少女は改めて少年に包みを手渡した。
 少年が包みを解くと、中には明るい緑のマフラーが一本。広げるとほのかにミントの香りがした。
「作ったのはいいけれど、あげる人がいないの。よかったら使ってね」
 言って、少女は少年にふわりとマフラーをかけた。
「ありがとうございます。ならば僕からはこれを」
 少年は手にしていたロウソクを少女に差し出した。小さな炎がゆらりと揺れた。
「貴女の心に、あたたかな光を」

 辺りを見渡せば、そこかしこに同じようなオレンジの光。


 降りしきる雪の中、それは地上の星のように見えた。