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父と子の往復書簡・24日目

時計 2007/10/27

「うん、これで全部かな」
 親指についたジャムを舐めとり、零は満足そうに頷いた。
 キッチンテーブルに並ぶのはできたてのパイ。どれもこれも狐色の焼き目に甘い香りを立ち上らせている。
「これが菅原さんの分、これがエレニアさんの分……」
 一個一個、指差し確認していく。大きさが違うのは、パイを贈る相手にも仲間がいるからだ。
「ザッハさんは食べるのかな?」
 少し考え込む。陽気なぬいぐるみは果たしてお菓子を食べるのだろうか。
「……ザッハさんだけじゃなくてリベカちゃんも食べてくれるよね」
 少し小振りな一つを前にしてそんなことを呟いた。
「これが彩ちゃんの分でー」
 言って指差した一つはザッハの分の倍はある。親友の彩が甘い物大好きなことと、連れのフェティたちも考慮に入れた結果だ。体力を売りにしているようなあの面々が、普通の量で満足するとは思えない。
「これが、」
 ともう一つ。彩の分よりもさらに気持ち大きいパイがあった。
「鬼城さんたちの、分」
 指差して呟いて止まる。
 このパンプキンパイは父のオリジナルレシピを拝借したものだ。幾重にもなったサクサクの生地に、優しく甘いカボチャのフィリング、仕上げの艶出しはアプリコットジャム。料理上手な父親はお菓子作りもそれなりで、零に絶対失敗しない極上レシピを教えてくれた。
「これはお詫びだもん。鬼城さんがつくったおやつ食べちゃったお詫び」
 知らず火照る頬に両掌を当て、まじないのように唱える。会心のパンプディングはおいしかったなぁなんてことも思い出す。
「鬼城さんの料理には負けちゃうかもしれないけど、お詫びだから、うん。それだけだもん。それだけ……」
 うん、とひとつ頷いて自分を納得させ、ケーキボックスの蓋を持ち上げた。
「隼人さんも食べてくれるかな」
 目付きも悪いし口もは悪い。けれど優しい青年を思い出す。
 その時。
「トリックオアトリート! だよぉぉおん! アヒャヒャ!」
 黒い影が零の頭上を飛び越え――
「キャー!」

 べしょっ

「リベカー、ゼロゼロからお菓子もらったよぉお!」
「ザッハちゃんの形のパイですなの? ……ザッハちゃんからも甘いにおいがするですなの」
「アヒャ?」