Day2 /Jack
- 2011/10/08 01:00
- Category: 日記ログ::ジャック
その男は名を持たなかった。
名前のない人間などいないだろうと言うと、奪われてしまってない、と答えた。
名前がないのは不便だろうと問うと、ならばお前がつけてくれ、と答えた。
大切にしていた名前を失って初めて、それがただの識別記号に過ぎなかったと気付かされた。
男は痩せた首を擦りながらそう言った。
名無しのジャック。
掃き溜めの世界には名無しのモノなんていくらでもいる。
せめてお前だと識別できるような物はないか。
そう問うと、これならばどうだろう、と男はボロボロのシャツをまくり上げた。
そこには引っ掻いたような傷跡が二本並んでいた。
消えない傷だと言った。どんな医療もどんな魔法もこの傷だけは消せなかった。
イレブン。
問答を見ていた客の誰かが言った。たしかに数字の十一に似ている。
男はそれを聞くと口の端を歪めて笑い、何も言わず店の外へ出て行った。
それ以降、男の姿を見ることはなかった。