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DayXX /Jack

 それは失われた記憶。遠いようで近い出来事。

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Day4 /Jack

 男は全てを失った。
 全てを奪われ、その身体以外の何もかもが消え去った。 
 本当の絶望の中に在れば涙さえも失うことを知った。

 そんな男の姿を見て、略奪者はせせら笑う。
 新月の夜、女王不在の闇の空を背負い、かつて男の目に宿っていた光が男自身を見下ろす。
 地に這いつくばる無様な姿がアメジストの瞳に映り込んでいた。

 冷やかな色をしている。そんな目で人を見たことなどなかった。
 嫌でも認めざるを得ない。かつて己の物だった双眸はもはや人の物だ。

 静かな夜だ。
 暗闇は惨劇を覆い隠す優しさと、救いの手を見失わせる残酷さを持ち合わせる。
 慟哭は柔らかな闇に飲み込まれ、祈りは風がさらっていく。

 何故殺さなかった、と男が問うと、死は救済であり解放である、と相手が答えた。
 そう簡単に楽になってもらってはつまらない、と一際甲高い声で笑う。

 全てを失った貴方に。
 そいつはそう言った。
 全てを失った貴方に、たった一つだけ贈り物をしましょう。

 そして細い指が伸びてきて。


 そこで記憶が途絶えている。

Day2 /Jack

 その男は名を持たなかった。

 名前のない人間などいないだろうと言うと、奪われてしまってない、と答えた。
 名前がないのは不便だろうと問うと、ならばお前がつけてくれ、と答えた。
 大切にしていた名前を失って初めて、それがただの識別記号に過ぎなかったと気付かされた。
 男は痩せた首を擦りながらそう言った。

 名無しのジャック。

 掃き溜めの世界には名無しのモノなんていくらでもいる。
 
 せめてお前だと識別できるような物はないか。
 そう問うと、これならばどうだろう、と男はボロボロのシャツをまくり上げた。
 そこには引っ掻いたような傷跡が二本並んでいた。
 消えない傷だと言った。どんな医療もどんな魔法もこの傷だけは消せなかった。

 イレブン。

 問答を見ていた客の誰かが言った。たしかに数字の十一に似ている。
 男はそれを聞くと口の端を歪めて笑い、何も言わず店の外へ出て行った。

 それ以降、男の姿を見ることはなかった。

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