青い空、やわらかな陽光。頬を撫でる風。
久方振りの遺跡の外だ。
遺跡の中には森があった。平原もあった。砂漠もあれば、山もある。天井を見上げればそこには何故か青い空があり、小鳥のさえずりさえ聞こえることもあった。
どういう仕掛けなのか、遺跡の中は屋外とまったく同じ環境にしつらえてある。
だが、どれだけ取り繕うとも地下は地下。地下特有のどことなく淀んだ空気と湿っぽさは拭えなかった。
ここには本物の空がある。零は大きく伸びをして、胸いっぱいに新鮮な空気を吸った。
「では一旦解散。集合は――」
パンパンと手を叩く音に振り返り、頭の中に指示をメモする。今日一日は遺跡の外で待機。補給やら買物やらとやらなければならないことは多いが、優先事項は休息だ。
外に出る直前に遭遇した赤毛の少女は、宝玉の守護者というだけあって手強かった。こちらも島に来た頃よりは強くなっているはずなのだが、さすがに無傷とはいかなかった。明日からのためにも傷を癒し、疲れを摂らなければならない。
さっさと用事を済ませ、部屋に戻って寝るところなのだが。
「んー……」
それぞれ散っていく仲間の中から一人の背中を探す。
「あの、イディアさん」
流麗な金髪の女性を追う。イディアと呼ばれた女性は、
「どうしました?」
振り返り、華やかな笑顔で応えた。
「その、占いとか……できます?」
顔が熱いのが自分でもわかる。俯きがちな顔を上げようとすると、どうしても上目遣いになってしまう。そんな零をイディアは優しく見詰め、
「あら。恋占い?」
いきなり核心を突いてきた。零の心臓が跳ね上がる。瞳孔が開いて一気に体温上昇。頭の頂点から湯気が出そうだ。
「い、いえ、その……」舌がもつれてうまく回らない。「……その通り、です」
少しでも落ち着こう、少しでも顔を冷やそうと頬に手を当てる。相手が見知った女性だからいいものの、他の人間にはこんな顔は見せられない。
「お相手はどなたかしら」
イディアはやはり女性として先輩だ。占いなんて数え切れないほどあるのに、恋愛事と当ててきた。零が考えていることなど簡単に見透かしてしまう。占いの相手が誰かもわかっているに違いない。
「菅原?」
だが、彼女の口から出てきたのは違う名前だった。
「え? あ、いえ、ちが」
思いがけない名に焦りが出る。羞恥とは違うもので頭の中がかき乱される。ここで否定しないと誤解が広がるが、慌てて否定したら嘘っぽいと思われるかもしれない。
一つ年下の少年は頼りになる仲間だけれど、そんな対象とは思ったことがなかった。
――出会った時にはすでに、あの人への想いが芽生えていたから。
「そんなわけありませんわね」
麗しい面から表情が消えた。氷の女王のごとき横顔に、零の顔も凍る。
あっさりと切って捨てたイディアはすぐに柔和な顔に戻り、「占いの前にお茶でもいかが?」と先に立って歩き出した。