昔のことだ。
まだ背丈も充分でなかった頃。
扉から覗いた先、台所で父親とその母、つまり祖母に当たる人が夕餉の支度をしていた。
鍋をかき回す祖母の隣で、父はざるいっぱいの絹さやの下ごしらえに取りかかっていた。思い出の中の台所は茶褐色一色に変容していたけれど、鮮やかな緑だけは目に残っている。
そう、朝に裏の畑で採ったばかりの絹さやだ。あまりにもの量に目を見張った覚えがある。父はあれを全て処理しようと言うのか。幼い目にはそれは険峻を登るより困難で、深海の底を目指すより終わりがない、途方もない作業に見えた。
果敢に山に向かう父を手伝おうと、隠れていた扉の陰から出ようとしたところだった。
「やっぱり心配なんだよね」
絹さやの筋を取りながら父が言う。
「あの子、変なのに目をつけられやすいから」
あれは、何歳のことだっただろうか。