これまでいくつものマジックアイテムに触れてきた。古代遺産から最新技術の粋をこらした物、果ては神の手による物まで、人知を超えた物すら扱ったこともある。
だから、その程度の物などどうということでもない。魔力を感じないのは、文明が発達していない国の産物だからだろう。
魔導の道を修めるならば、未知の物体に触れること躊躇うな。そう理性が本能を諭す。
学生服姿の少年――菅原が差し出してきた‘それ’の意味と、行動の意図がわからない。訝しげな目を向けると、菅原は‘それ’を耳に当てる振りをする。そして再び、今度は押し付けるように渡してきた。人差し指で自分の耳を指す。
手の平より少し大きな物体だった。つるりとした材質だが鉱石の類ではない。木材よりももっと軽い素材でできている。薄い直方体を二つ縦に繋いだ、くの字の形をしていた。上の直方体の表面には水晶のような薄い膜がはめ込まれていて、自然や魔法とは異質な光を発している。
形状、素材共に記憶にある如何なる道具にも合致しない。
似たような物を持っている人間はたびたび見たが、何に使う物かは知らなかった。こうして実際に手に取ってみるのも初めてだった。
おっかなびっくり、菅原の真似をして耳に当ててみる。
『もしもーし?』
それがエドの携帯電話初体験だった。