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Day4 /Jack

 男は全てを失った。
 全てを奪われ、その身体以外の何もかもが消え去った。 
 本当の絶望の中に在れば涙さえも失うことを知った。

 そんな男の姿を見て、略奪者はせせら笑う。
 新月の夜、女王不在の闇の空を背負い、かつて男の目に宿っていた光が男自身を見下ろす。
 地に這いつくばる無様な姿がアメジストの瞳に映り込んでいた。

 冷やかな色をしている。そんな目で人を見たことなどなかった。
 嫌でも認めざるを得ない。かつて己の物だった双眸はもはや人の物だ。

 静かな夜だ。
 暗闇は惨劇を覆い隠す優しさと、救いの手を見失わせる残酷さを持ち合わせる。
 慟哭は柔らかな闇に飲み込まれ、祈りは風がさらっていく。

 何故殺さなかった、と男が問うと、死は救済であり解放である、と相手が答えた。
 そう簡単に楽になってもらってはつまらない、と一際甲高い声で笑う。

 全てを失った貴方に。
 そいつはそう言った。
 全てを失った貴方に、たった一つだけ贈り物をしましょう。

 そして細い指が伸びてきて。


 そこで記憶が途絶えている。

Day4 /Killy

 何故と問われても退屈凌ぎとしか答えようがない。
 女は常に退屈だった。

 求めてやまなかった術は飽きるほど永い時を与えてくれた。
 己の出自も真の名も忘れてしまうほどの永さだ。
 永い時は学ぶには短すぎ、娯楽に費やすには長すぎた。
 学ぶほどの根気もなく、かと言って絶えず遊びを思いつくほどの才能もない。
 どちらも熱心にやるほどの意欲がなかった女は、結果、暇になった。

 暇に飽かして、目につくものを壊してみた。
 欲しいと思ったものは手に入れた。
 手に入ったものはすぐに飽きた。

 次々と壊し、手に入れ、そして捨てた。

 いつしか人は女を魔女と呼んだ。鬼と呼んだ。悪魔と呼んだ。災厄と呼んだ。
 しかし女はそんな二つ名など意に介さず、思うがままに行動した。
 いくつもの国境を越え、いくつもの街を渡り歩いた。

 時だけは永遠にあった。


 そして、それも通り道の一つだった。
 とある国のとある小さな農村の、どこにでもあるような道だった。

 すでに通り過ぎた小道のことなど、女は欠片も覚えていない。

Day2 /Jack

 その男は名を持たなかった。

 名前のない人間などいないだろうと言うと、奪われてしまってない、と答えた。
 名前がないのは不便だろうと問うと、ならばお前がつけてくれ、と答えた。
 大切にしていた名前を失って初めて、それがただの識別記号に過ぎなかったと気付かされた。
 男は痩せた首を擦りながらそう言った。

 名無しのジャック。

 掃き溜めの世界には名無しのモノなんていくらでもいる。
 
 せめてお前だと識別できるような物はないか。
 そう問うと、これならばどうだろう、と男はボロボロのシャツをまくり上げた。
 そこには引っ掻いたような傷跡が二本並んでいた。
 消えない傷だと言った。どんな医療もどんな魔法もこの傷だけは消せなかった。

 イレブン。

 問答を見ていた客の誰かが言った。たしかに数字の十一に似ている。
 男はそれを聞くと口の端を歪めて笑い、何も言わず店の外へ出て行った。

 それ以降、男の姿を見ることはなかった。

Day2 /Killy

 その女はかつて名を持たなかった。

 名を持たぬ人間なぞいるかと言うと、人間じゃないから、と答えた。
 では今名乗った名はなんなのだと聞くと、奪った物だと答えた。
 人の名を、地位を、名誉を、家族を、生活を、全て奪い、己の物にしたのだと。
 女は眼鏡の鼻当て部分を持ち上げながらそう言った。

 その名は東洋人のようであったが、容姿は明らかに東洋人ではなかった。

 この世界では偽名など珍しくもない。

 本当の名を教えてくれないかと冗談半分に言うと、ひとつ前の名前なら、と教えてくれた。
 白い指が髪の切れ端に書いたのは、知らない文字だった。呪文のような文字は、見ているだけで胸をかき乱される。禍々しい字面は不安を呼び起こし、発音まで聞く気にはなれなかった。

 これは人が口にしてはいけないものよ。

 女は無邪気にそう言った。
 聞いた人間からは何かを奪わねばならない。それがルールだ、とも言った。
 顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。開き切った瞳孔の向こうに、深淵なる闇が見えた。
 聞いてしまったことを後悔したが、遅かった。
 女の手がこちらの顔に伸びる。殺される、と本能が頭蓋の中に警鐘を響かせる。

 だけど今は特に欲しい物もないから見逃してあげる。
 明るく言った女の指が目の前から逸れ、揺れる扉から出て行った。

 それ以降、女の姿を見ることはなかった。

Day1

 運命は我らを幸福にも不幸にもしない。 ただその種子を我らに提供するだけである。

――モンテーニュ

PC設定/ジャック・ノベンバー

ENo.1206 [アンジニティ]
名前: ジャック・ノベンバー
愛称: ジャック
性別: ♂
年齢: 20代後半
職業: 無職
性格: 無欲、無感動、無気力、低テンション
苦手: 不明

名前を奪われた青年。現在の名は仮名。
欠損した体を機械で補っている。
家族殺しの罪を着せられ、落された男。

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PC設定/神無月 キリイ

ENo.1191 [セルフォリーフ]
名前: 神無月 キリイ
愛称: キリイ
性別: ♀
年齢: 不明
職業: 魔女
性格: 刹那的、享楽的、快楽主義
苦手: 不明

数百年前に不老不死の法を手に入れ、悠久の時を生きる女。

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はじめに

六命ことSicx Livesの1プレイヤーの雑記帳。
偽島に引き続き、テキトーにやってます。

反応激遅がデフォ。
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